夜明け前の心臓(仮)

最重度の心臓病の一つである左心低形成症候群の息子の記録。手術・入院・通院の事や病気の情報など。あと雑記。

鹿とぶつかった話

はてなブックマークのホットエントリーを眺めていたら、車とクマが衝突したのがドライブレコーダーに残っていた……という北海道み溢れるニュースが飛び込んできた。
(そんなにブコメが伸びるような記事か……?)
www3.nhk.or.jp

このニュースを見た時、ドライブ中に鹿と乗用車が衝突した思い出がブワーと蘇ってきた。

車がクマと衝突 ドライブレコーダーに衝突の瞬間 北海道 | NHKニュース

鹿とぶつかったことならある/鹿は死んだし車はベッコベコ

2018/08/03 00:02



当時わたしは女子高生で、所属している部活の大会からの帰り道だった。
顧問の先生が運転するハイエースに皆ぎゅう詰めで乗っていた。
助手席の部長は顧問と他愛もない話をし、後部座席のわたし達後輩は連日の活動に疲れてうとうととまどろんでいた。

北海道の野山を走行すると、飽きる。
確かに豊かな自然は美しいことは美しいんだけど、景色の変化がほとんどなく退屈なんだ。

北海道で道に迷うのは本当におそろしい。
走っても走っても景色が変わらなくて、ゲームに出てくる迷いの森(ループするマップ)に入り込んじゃったかのような錯覚をおこす。
ガソリンが残り少なくなってきて心細い中、ようやく遠くにガソリンスタンドらしきものを認めて喜んだのも束の間、それがとうの昔に廃業した朽ち果てたスタンドだった時はサイレントヒルに迷い込んだかと思い戦慄した。


閑話休題。





夕闇せまる中、それは突然やってきた。


耳をつんざく先輩の悲鳴と急ブレーキの耳障りな高音、一拍遅れて、ドン、とボディに激しい衝撃。
シートベルトをしていなかったわたしは前の座席にしこたま頭をぶつけ、隣の子と絡まりながら床に転げ落ちた。
心臓はバクバク音をたてて異常事態を告げている。
先生はすぐさまハザードを焚いて路肩に車を留め、「チッ」と舌打ちをして車外を確認しに行った。


「鹿が飛び出してきたんだ」と部長は言った。
そうか、鹿か。
なあんだ、と安堵する気持ちと、いやいや、交通事故だろ普通に考えて、という気持ちが交錯する。

おそるおそる振り向くと、アスファルトに急ブレーキのタイヤの跡が不吉に長く残っていて、血痕……はあったかな、どうだったかな、覚えていない。
鹿はだらりと脱力して、もう多分、こと切れていた。
先生はそのぐんにゃりした鹿の角を両手でひっつかみ、ずるずるとひきずっていった。
そして、最後ぐっと屈んで力を込めると、ぽいっと道の外に投げ捨てた。

え、ええー。


とにかく顧問としては、わたし達を傷つけることなく家に送り届けなくてはいけない。

もう日は暮れ始めている。
わたし達の眠気は吹き飛んでいた。
車の中で、わたし達は興奮したようにしゃべりまくった。内容は覚えていない。


そういえばこの顧問の先生、狩猟免許を持っており、自宅に銃も持っているらしい。
だから鹿の扱いに慣れていたのか。
先生は「車で誤って鹿を轢いてしまったときは自分で捕ったのと同じになる、お前たちがいなければ持って帰ったんだけどなあ、ハハハ」と言っていた。

ハハハ。

お礼を言って車を降りるとき、ハイエースのフロントを見てみた。
ベッコベコ。
フロントは大きくへこみ血痕がついていて、サイドミラーは粉砕されていた。



後日、部長に話を聞いたら、鹿は暗がりから急に飛び出してきたそうだ。
ドライビングテクニックでどうにかできるような状況では到底なかったらしい。
北海道は積雪のため、路側帯が非常に大きい。車一台は余裕で停められるくらいだ。
また異様に長い直線道路があったり、対向車が少ないからと速度オーバーで走る車もめっちゃ多い。
いまだに全国でもワースト1・2を争う高い交通事故死亡者数の背景である。



冒頭のニュース動画、どうも子熊のように見えるけど、大人のクマだったら大事故になっていただろう。
っていうか、相手が子熊だろうと危険なことには違いないので、本当に幸運だったケースだと思う。
(たぶんこの車も映ってはいないがベッコベコになってるんじゃないかな)

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知床ウトロで撮った写真

わたしは道東の僻地で生まれ育ったから、割にこういうのは日常茶飯事で、小学校の遠足が「ヒグマが出没したため延期です」というのも珍しくなかった。
網走⇔札幌間のJRに乗ると、一日に何度も「線路内に鹿が侵入したため徐行運転します」というアナウンスを聞ける。
だから、こういうニュースが全国(っていうかはてブ)で騒がれているのを見て少しだけ愉快になったので書いた。

観光で来るならとてもいいところですよ、北海道。
野生の動物にエサをやったりすることだけは、どうか絶対にやめてくださいね。
わたし達にとっても、動物達にとっても不幸な結果しかありませんので。