夜明け前の心臓(仮)

夜明け前の心臓(仮)

最重度の心臓病の一つである左心低形成症候群の息子の記録。手術・入院・通院の事や病気の情報など。あと雑記。

ここがつらいよ乳幼児の在宅酸素療法生活

 はる君が風邪をこじらせて緊急入院をしてから、24時間酸素吸入が必要になった。外で鼻にチューブを入れた小さいお子さんを見たことがある方は少ないと思う。わたしも病院以外で見かけたことはない(いたとしても目に入ってなかった可能性はある)。
正確な統計はないようだが、さっとググった情報では小児の在宅酸素ユーザーは全国に5000人程度だそうだ*1。思ったよりは少ない……?

 ぱっと見大変そうでしょ。でも、みなさまが思ってるほど大変でもないよ。そもそも乳幼児を育てること、それ自体が大変なんだから!
どんな大変さがあるか、ちょっと紹介したい。あくまでわが家の場合なので個人差はある。
これからお子様が在宅酸素療法を受ける親御さんも、単にちょっと興味のある方も、通りすがりさんも良かったらどうぞ。


※個人の意見です。医療情報が含まれますが、病児の親という素人目線からの記事となっており、正確性については保証いたしかねます。間違いがあれば教えていただけると助かります。

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普段はこんな感じでおでかけするのよ

本題は記事の後半にあります。前半に在宅酸素療法の情報を書いたため、記事がそこそこの長さになってしまいました。目次から読みたいところだけどうぞ。

在宅酸素療法の基本知識

・慢性呼吸不全・肺高血圧症などの慢性疾患・チアノーゼ型先天性心疾患(はる君はこれ)があり、かつ家で過ごせる程度には病状が安定している患児を対象に、自宅で継続的に酸素吸入をする治療法のこと。
Home(在宅) Oxygen(酸素) Therapy(療法)の頭文字をとってHOT(ホット)とも呼ばれる。

在宅酸素療法の目的

子どもが慢性の低酸素状態にあるとどうなるか?

  • 肺血管が収縮して肺高血圧になる
  • 発育が抑制される
  • 運動能力が低下する
  • 呼吸器感染に対する余力がなく、再入院が増加する

 つまり在宅酸素療法の目的は、将来の肺高血圧を予防し、成長・発育を促し、家庭で過ごせるようにすることである。肺高血圧というのは一般の方には耳慣れない単語だと思うが、普通の「血圧が高い」とは全く違う。心臓から肺へ血液が流れにくくなった結果心不全が進行する、治療困難な難病である*2

使用する医療機器

酸素濃縮器

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 自宅で使用しているのは、エア・ウォーター・メディカル株式会社の小夏3SP。帝人のハイサンソシリーズと比較して、加湿機能はないが軽量でカート型なため取り回しが可能なこと、静音であること、消費電力が少ないことなどからこちらを選択。

 酸素濃縮器はその名のごとく、空気中から窒素を吸着して得られた酸素を供給する機械である。空気中の通常の酸素濃度は約20%だが、濃縮機を通すと約90%程度まで酸素濃度を高めることができる(このことを知るまでは、液体酸素をちょっとずつ出すのかな、内部で化学反応させているのかな……などと思っていた(;'∀'))。

酸素ボンベ

 酸素濃縮器は自宅専用で、外出時には携帯酸素ボンベを使用する。中に入っている気体によって外装の色が変わる。酸素のボンベは全部黒色。機能的な大小二種類のバッグ、カートも一緒に貸してくれる(バッグは帝人のほうがリュック型になって便利だと思った。エア・ウォーターのは片掛バッグ)。

カニューレ

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 この鼻に通しているチューブをカニューレ(カニューラとも)と言う。やわらかいチューブ。見た目どおり、酸素を鼻へ通す役割をする。成人やある程度大きいお子さんはカニューレ単独で固定できるが、乳幼児はテープで固定するのが無難。テープが不要なお子さんもいる。

↑我が家で使用しているテープ。ライナーがついていて、任意の形に切りやすい。

パルスオキシメーター

 SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)のモニター。健康な人なら正常値は100%~99%となるが、はる君はグレン循環のため80%前後が目安となる。SpO2が70%を切ると肺高血圧が進行するため、70台前半になったら主治医に連絡して指示をあおぐことになっている。

子どもの在宅酸素療法の辛いこと

 ようやく本題に入ります。辛いこともいろいろあります。ありますとも。流行のランキング形式にしましたのでどうぞ!

5位 カニューレの扱いが大変

 これは乳幼児ならではの悩みで、ほんとに困る。いまだにカニューレを外しちゃう。わかる、わかるよ。ずっと顔にチューブがテープでくっついてるなんて嫌だよね。赤ちゃんは鼻呼吸しかできないのに、鼻からゴーゴー空気が入ってくるもんね。もう少し成長したら酸素の必要性に気付けるそうだが、まだまだその日は遠いみたいだ。

 最近は子ども用イスの上で回れるようになったので、カニューレが体に巻きついてハムみたいになって泣いていた。笑った。

4位 ボンベがかさばる、重い

 大きいボンベは4.8kg、小さいボンベは2.5kg。思ったよりは軽いかな?いえいえ、育児経験のある方ならおわかりでしょう。乳幼児との外出はおむつミルク着替え諸々で荷物がすごく大きく重くなるってことを。プラス酸素ボンベとなるとなかなかの負担です。

 酸素ボンベはベビーカーには積めないことも多い(我が家で使用している機種は小ボンベなら積載可能)。仮に載せられた場合でも、バリアフリー化が不十分な駅や公共施設では他人の手を借りなくてはいけない状況に陥っちゃうこともある。ボンベをカートに載せれば重さは感じないけど、階段やわずかな段差にしょっちゅう阻まれる。
世界は段差に満ちている。

 わたしは移動の際には抱っこ紐を使っている(体力に自信があるけど時折つらい)。パラリンピックまでにもう少し段差をなくせるようがんばってほしいな。車イスやベビーカーにやさしい場所は、わたし達在宅酸素ユーザーにもやさしい。

3位 焼肉禁止(火気厳禁)

 そう、焼肉は禁止なの!
 おわかりだろう、酸素は支燃性の気体だもの。当然火気厳禁である。酸素の発生源(酸素濃縮器&酸素ボンベ)からはできれば5メートル以上は離れる必要があるとされている。
焼肉なんてもってのほか。ホットプレートでやればいいのか。そういう問題じゃないか。

 ……焼肉はともかく、毎日の料理で火を使う。気も使う。オール電化の方なら安心だけど、わが家はガスコンロだから、料理中にはる君を近づけないよう細心の注意を払っている。まだハイハイもできないからいいけど、今後歩き始めたらこわいな。ベビーゲートをつけよう。

 あと!ほんと歩きタバコやめてよね!!こわいから!*3

2位 外出時の時間制限

 はる君の場合、大ボンベ…5時間、小ボンベ…3時間半くらい持つ(1分間に1Lの流量)。保育園の送り迎え、スーパーでの買い物、銀行の用事、通院、常に残り時間を気にしている。4歳のるう君と公園で遊んでいて「帰りたくない、もっと遊びたい」と訴えられても、はる君の酸素の残量が少なければ帰らなくちゃいけない。
(今のところ、はる君は酸素がないと直ちに命に関わるという状態ではない)

1位 人の目がつらい

 わたしにとって一番つらかったのは周囲の目だった。人によるだろうけど、これをつらかったこと一位にしたい。過去形なのは、今はあんまりそう思わないからだ。

 何がつらいって、「障害があるなんて、あの子はかわいそうだ」と思われるのがつらい。面と向かって「あら……かわいそうに……」とおっしゃられる方もいる。本当に多いんだよ。こんな時、わたしは「この子はかわいそうではありません!」と即マジレスする(よくもまあ、本人とその親を前にしてぬけぬけと言うよなあ。子どもだからわからないとでも思っているのかなと内心毒づきつつ)。そして後になって「悪気はないんだ。かわいそうっていうのは善意から出た言葉なんだ」と思い直し、自分、ひねくれてんなーとモヤモヤするのだった。

 しかしやっぱり、はる君がかわいそう/かわいそうじゃないかなんて他人に決め付けられたくないな。はる君本人に聞いた訳じゃないけど、毎日楽しそうに笑って暮らしてるから、不幸だとは思ってない気がする。……思ってないといいな。


 ひとつ懺悔したいことがある。

 わたしは「障害者はかわいそう」と思っていた健常者のひとりだったことだ。愚かなことに、自分はは優しく思いやりにあふれた人間であり、差別なんてしていないと思い込んでいた。そんな中、発達障害の長男きい君と、左心低形成症候群のはる君が産まれ、いままで知らなかった世界をいろいろ目にすることになった。そこで自分の中にも障害者を差別する心があったことに気づいて動揺した。ショックだった。

 ……ここまで文章を書いていたら、これからわたしが書こうとしていたことがすでに言語化されていた。おお。
障害者に対してフラットな目線で書かれている記事は多くないので紹介させていただく。
www.saiusaruzzz.com

 さっきフラットな目線と書いたが、言うのはたやすくて行うのは難しい。「この人は障害があってかわいそうだから……」「障害のある人に比べて恵まれてるんだから、このくらい我慢しないと……」みたいな考えになりがちだと思う。でも障害者・健常者の枠を超えて対等であろうとしてくれる人ってすぐわかるし、そういう方って貴重なのですごくうれしい。障害者/健常者は関係なく、人格者もいれば、クズもいる。当たり前のことなんだけどね。



 はる君とわたしは週に2~3回公共交通機関に乗る。外出可能な病状であっても、感染のリスクを恐れたり人目が気になって外出を控える親御さんは多いと思うから、在宅酸素療法を行っている乳幼児にしては多いほうかもしれない。比べたデータはないからわからない。東京に住んでいてありがたかったのは、鼻チューブとヘルプマークを装備したはる君をジロジロながめる人は少ないってこと。そして、かなりの確率でわたし達親子に微笑んでくれる人もいる。わたし達は「他人に迷惑をかけないように」とずっと教えられてきたから、自分が我慢すればいいことだったら、ひと様に迷惑をかけずに自分が我慢することを選ぶ人が多いんじゃないかな。



 お願いがあります。病児を育てていますが、「かわいそう」と言われるよりは「がんばってるね」と言ってほしい。はる君の障害は軽くはないけど、就学・就職して社会の中で暮らす未来を与えたい。なるべく他人の手助けが必要ないように医療と社会は変化してきた。どうしても誰かの手を借りなければいけない時はあるけど、もしあなたに余裕があれば手を貸してほしい。わたし達も、なるべく迷惑かけないようにするからさ。ね。それが叶わないなら、せめてはる君を見送ってから死にたいものだ……。

 なんか、いじけたことを長々と書いてしまったけど、結局は慣れかな。外出許可がおりた子が外出しているのは当たり前。どんどんお外に出て、障害のある人もない人も心地よく暮らせるといいね。

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改訂2版 医療従事者と家族のための小児在宅医療支援マニュアル

改訂2版 医療従事者と家族のための小児在宅医療支援マニュアル

参考図書